Googleが自動運転するクルマの開発をしていることは周知のことだが、こうやって動画を見ると、あらためていいなぁ〜、って思う。
永らくクルマに興味がなくなってたのだが、久々に「いいなぁ〜」と感じたことで、ある事を思い出した。今回は個人的な回想録をブログに。
学生の頃からクルマが大大大好きで、ひと通りの工具も揃え、雑誌(オートメカニック)やネットで情報を得ながら、メンテナンスや修理など、たいがいの事は自分でやってきた。CR-XやS13シルビアに乗っていたが、大きめのクルマが欲しくなりシボレーに。いのちの次に大切なのはクルマ。つねに愛車は猫っ可愛がりしていた。ボディ全体にポリマー掛けて、さらにカルナバ蝋WAXで艶出しして、とにかくピッカピカにしていた。
禁煙・土禁はもちろん、 ●基本的に他人は乗せない。 ●シャッター付きのビルトインガレージに格納。 ●雨が降っていればもちろん、風が吹いていてもガレージから出さない。 ●出先の駐車場に車を停める際は、(横に停めているクルマのドアの開閉時に当てられるのが嫌なので)必ず2台分の駐車スペースを使って斜め駐車し、さらにオート・セキュリティ・システムを装備して、車に近づくだけで警告、触れるとサイレン発報させる。 ・・・といった様な事をして、とにかく徹底していた。
だけど今現在の僕は、雨が降っているからクルマを出すし、洗車も数ヶ月しなくても平気。ボディが少々凹んでも、気にしなくなった。クルマへの、当時のようなモチベーションはなくなった。
というのも、数年前の約1ヶ月間、アメリカ東海岸をクルマで移動する事があったのだが、そこで本質的なクルマの使われ方というか、人とクルマの接し方を目の当たりにし、アメリカでは、クルマってやっぱり生活の中の主たる一部で、足代わりなんだなぁ、とつくづく感じたから。そしてもう一つが、「刑務所から出所してきたおじさんの話し」からだ。
東海岸のクルマ移動で乗っていたのは、発売されたばかりのDodge Charger 5.7リッター V8モデル。とにかく顔つきがイカツい、いかにもアメ車っぽいクルマ。もちろんレンタカーだ。片田舎の道中、スピードも出してないし、何も悪いことなどしてないのに、パトカーに停められたこともあった。「お前みたいな(貧乏学生風情の東洋人が)、なぜこんな新型車に乗って、どこへ行くのだ?」って、職務質問するためだった。僕は学生じゃない、と自分の身の上話をし、さらになぜかパトカー内で警察官の身の上話も聞かされ、「お互い大変だけど頑張ろう」って結論になって、おかげで切符は切られなかったが・・・。それはいいが、Chargerはトルクフルな大排気量車なので、巡航するのは快適だった。でも、多い時は一日に3回も給油する事もあった。一回あたりの給油量は100リッター。当時アメリカでも、ガソリン代が高騰してきてて、話題になっていた頃でもあった。
ある日、帰宅ラッシュ時刻にワシントンD.C.に差し掛かり、ハンドルを手にした僕は気もそぞろだった。大きなフリーウェイで、片道10車線くらいある広い道路は大渋滞していた。もう2時間30分以上経つ。いつまでたっても動かない。おまけにナビを見ると、これよりだいぶん先に跳ね橋(Woodrow Wilson Bridge)があって、さらに渋滞があるようだ。僕が気もそぞろな理由・・・、運転するChargerのガソリンが、ほぼ空に近かったのだ。
こんなところでガス欠なんかしたら大変。渋滞で周りのドライバーたちはいらだっているのに、火に油だ。嫌味やヤジを言われるだけならまだしも、(有料道路ではなく)フリーウェイ上なので、おかしな奴から因縁つけて来られて、あらぬことになるかも(フリーウェイは通行料が要らないので、おかしなドライバーが結構そこらにいるので)。そして、電話でロードレスキューを頼んだとしても、この渋滞の中、到着するのはいつになることかわからない。さらに今晩、アメリカ首都のワシントンD.C.界隈で、僕の予算内で泊まられる宿など、きっと皆無だ。
『こうなったら、”ラッシュ時の阪神高速大阪環状線×5倍(?)”の厚かましい運転だ!そうしない限り、前には進んで行けない。』・・・そう心を決めた。アメリカのドライバーは、車間距離を開ける人が多く、結構割り込みはしやすかったりする。それに、ウインカーを出せば、すんなりと入れてくれることが多い。とにかくガンガン進んでいった。クルマが新型のHEMI(Dodge Charger)であり、目立つ車でよかった、と思った瞬間でもあった。次のランプを降りて、無事給油も済ませることができた。ギリギリセーフだった。
その渋滞の渦中の2時間半、暇なのでずーっとラジオを聞いていた。D.C.エリアの夕方のローカルAM局、リスナーが電話参加して、番組のパーソナリティと政治・経済・時事について話をするといった、典型的なNEWS & TALKラジオ番組だ。その中で、陽気な黒人系の中年男性が電話で話す内容が耳に残ったのだった。
そのおじさんは、何年も前から刑務所を出たり入ったりしていた。そのすべてが短期間の牢獄生活だったが、一番最近の罪の刑期は長かったようで、5−6年刑務所に入ってたとのこと。長期滞在の刑務所内では、相当散々な目にあったようで、もう二度と長期収容はしたくない。だから、きちんと働こう、ということで色々と職を探すが見つからず、どうしようかと途方に暮れていた。そんな時に受けたオファが、開発中の自動車の実証運転テスト。その内容は、某メーカーの開発中のテスト車に乗り、全米各地をとにかく走り回るというもの。テスト車は、GPSとインターネットで、研究所より24時間監視されており、すべてのデータは即時記録されているとのこと。おじさんは、定期的に指示を受けながら、決められたルートを工程通りに進むのみ。つまり、することといえば、「運転すること」のみだという。現在、そのテスト中で、ちょうどD.C.エリアに来ていて、今日の工程が終了し、宿に入って電話していた。
おじさんは黒人英語の特徴的なテンポある口調で、早口で話しながら、要所部分にオチをつける。”… , because I’m afraid of put in jail again !!”(もう刑務所に行くのは怖くて御免だから。) その文言が面白くて、僕は渋滞の中、ラジオを聞きながら大笑いしていた。ふと横・斜め前・後ろ、周りのドライバーを見ると、皆笑っていた!このラジオだ!!
おじさんが乗っている実証実験段階のテスト車は、契約上、メーカー名も車名も一切言えないとのことだ。・・・もちろんそうだろう。だが、今思えば、それはプラグイン ハイブリッドのトヨタ プリウスだったようだ。おじさんは、とにかく指示工程通りにクルマを走らせ、指定された地点へと向かい、その指示地点ですることは、クルマを家庭用のコンセントに差し込んで充電することだという。最初、おじさんは、「そのままこの車に乗って、トンズラしてやろうか」という考えがよぎったようだ。でもやっぱりやめたという。なぜなら、”… , because I’m afraid of put in jail again !!”だからだ。
テスト車の位置は、つねに研究所に把握されている。おじさんが指示を受けて向かう地点は、研究所より事前に連絡や手配が行われているようで、指示されている地点に到着すれば、コンセントは既に準備されているという。食事したり、数時間休憩したりして、連絡を受けてまた走る、といったことを行っている。かれこれ2週間以上、テスト車を運転しているとのことだ。その間、おじさんが、テスト車にガソリンを給油した回数は、なんと3回だけ!あとは充電のみで走り続けているらしい。・・・一日にガソリンを3回給油し、それでもガス欠寸前で、渋滞に巻き込まれてカリカリしながらいる僕はもちろん、周りの皆が全員「いいなぁ~」って思ったはずだ。ラジオのパーソナリティが、テスト車の車名や会社名を、どうにかして聞き出そうとするが、おじさんは答えない。なぜなら、”… , because I’m afraid of put in jail again !!”だからだ!!
日本に帰国後、僕はしばらくクルマに乗る気がしなくなり、そして大切だったシボレーを処分した。
今は業務上必要なので、再度車を所有しているが、ネットオークションで激安で買って、自分で修理メンテした軽自動車だ。シボレーと比べると燃費は幾分かは向上したが、ガソリンがなければ走らない。これで十分なんだけど、でもやっぱり、プラグインがいいなぁ〜。さらに、ハンドルもアクセルもブレーキもない、Googleカー、こんなのも素晴らしいな〜。
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